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寒茶のお話


こんにちは、石本です

みんなは、わたしのこと「寒茶ばっちゃん」とよぶんですよ
寒茶が大好きで、お茶の話なら…なんでもおしゃべりできるから…

おいしい寒茶が生まれる山里のお話
ゆっくり聞いてくださいね

   *   *   *

ここの裏山には鹿がいて、イノシシも時々顔をだす
静かな山里です




うちの段々畑には、お茶の木がたくさん植わってます
でも、初めから人がどんどんお茶の木を植えたんではなく

もとから、この山にはお茶が自然に生えていたんです
普通のお茶っ葉よりも、ちょっとごっつい厚めの葉っぱでね

ここでとれるお茶が「寒茶」(かんちゃ)になるんです


ところで寒茶って名前、ちょっと不思議でしょ?
茶摘みと言えば

♪夏も近〜づく八十八夜 ちょんちょん…と5月頃の話


でも、ここでは、冬の一番寒〜い時期
正月明けから旧暦の節分あたりまでに茶摘みをするんですよ

いろんな季節にお茶の葉を摘んで
試して飲んでみたんだけれど

やわらかい新芽の季節よりも
分厚い葉の中に栄養をたっぶりため込んだ
冬の茶葉を煮出した時が
一番甘くておいしい!!

そこで「寒茶」になったんです

「日本で一番早い茶摘みの里」って呼ばれるのも
そんな訳からなんです

   *   *   *

ところで、この茶畑
実は野ねずみたちがせっせといっしょに作ってくれたんですよ

野ねずみが作る茶畑!?

そうなんです




お茶の実は、野ねずみたちの大好物

彼らは、秋から冬にかけて
たくさんの実を集めては巣に運んだり
ヒミツの貯蔵庫にしまうんだけれど

どこにしまったか忘れちゃったり
全部を食べきれる訳じゃないから

思いもかけぬところから
ひょっこり、芽が顔をのぞかせることもあって

それがどんどん伸びて
お茶の木に育っていくんです

でも、もちろん、わたしだって
あっちこっちに、お茶の実を撒いて
お茶の木を育ててきましたよ

野ねずみたちが作った分と
わたしたちが作った分と
合わさって、この茶畑はできたんです

野ねずみたちも住んでいるから

ここには、薬は撒きません

農薬も除草剤も使いません

夏の暑い日に、草取りはとても大変だけれど
自然の恵みは
やさしくいただきたいもの

小さな生きものたちと
分けあいたいですものね

でも、大変なことばかりではなくて
この茶畑の足元では

春には、ぜんまい
夏には、みょうがもたくさんとれるんですよ
これらの山菜を頂くのも楽しみのひとつです

   *   *   *

そうやって育った茶畑のお茶

この寒茶を飲むと
なんだかほっとする
なごむんです
という、おたよりもいただきます

なんでかなぁと思って
専門家の先生に聞いてみたら

タンニンやカフェインが少ないんだそうです

ここらでは
昔から

小さな子どもも
おなかに赤ちゃんのいる妊婦さんも
お年よりも
病をかかえた人も
みんな、この寒茶を飲んでました

やっぱり体にやさしいお茶だったんですね

   *   *   *

お茶の味はというと

やさしい甘みのある味わいです




緑茶の渋み
番茶の香ばしさとも違う
ゆったりとした独特の風味です
ハーブティーのような刺激もありません

まろやかな
あたりのやわらかい味で
後味もすっきりしているのが特長です

甘くて、まろやかで、とにかく胃にやさしいんです
ゴクゴクと水の代わりに、いくらでも飲めてしまいます
だから、夏は冷やした寒茶をいただきます
ヤカンに作りおきしても、真夏でも傷みにくいのも魅力ですね

特に
中華料理など、油っこい料理などの後には
胃がすっきりする感覚が味わえるでしょう


やさしい味の秘密

その前に、茶畑の場所の紹介をしていませんでしたね

この茶畑は四国の右下、徳島県と高知県の県境にある
がけっぷち海岸とよばれる、風光明媚なリアス式海岸から
10数キロほど山中に入った、わずか20軒ほどの集落にあります
携帯電話も通じない秘境、だから昔からの自然が今も残っています





集落を流れる野根川は、良質の天然鮎やアマゴが棲む
ダムのない美しい清流です

空気も水もおいしい、天然素材に囲まれた茶の木は
肥料を特に与えなくても、育つのです
人が手をかけるものは、草刈や茶の木に絡みつくカズラを取り除くことくらい

茶葉の収穫は正月が明けてから、遅くても3月上旬までです
この時期は茶の木の水分が少なくなり
葉の旨みが一番濃厚になるんです
厚手の茶葉を丁寧に手摘みしてから、30分ほど蒸します
蒸し終えたら、数日、天日乾燥させて「寒茶」の完成

手摘みし終えた茶の木には、ありがとうの気持ちをこめて
油カスをご褒美にあげます
もしも、これを肥料とよぶならば
1回だけは撒いていることになりますが
わたしは、肥料という感覚は持っていません
恵みをいただいた、茶の木へのご褒美なんです

人の都合で茶の木を支配するのではなくて
茶の木が自分で生きる環境を提供しているだけ
だからおいしさの秘密は、特にないのです


何もしないこと

巷では「自然農法」とか「自然栽培」と名づけているようですが
茶の木に対して愛情をもってつきあうことが
おいしさの秘密といえば、秘密なのかもしれません


寒茶はどれくらいできるの

わたしの茶畑で手摘みする茶葉の量ですが
生の状態でおよそ200キロくらいです
これを蒸してから天日乾燥すると80キロほどになります

ここ海部郡海陽町宍喰で寒茶を作っている農家は20軒もありません
ですから、「幻のお茶 寒茶」とよばれるんです

「寒茶」ですが、その大半は地元で飲まれてしまいます
わたしは、この集落で生まれ、結婚して現在に至ってますが
産声をあげたときから、ほぼ毎日「寒茶」を飲んできました

「寒茶」の効果かはわかりませんが、大病もなく
ご近所さんからは「肌の艶がとてもいいね」と、よくいわれます


お待たせしました、次は茶摘から寒茶が出来るまでを紹介しますね

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